どんな二人?
その日の授業終了のベルが鳴り響くと珍しく教室にいた亜久津はサッサと廊下へと出る。
そこへ、オレンジ色の頭の千石清純が亜久津の進路を遮った。
「亜久津、さっきの話だけど、考えてくれた?」
面倒な亜久津の顔を他所に千石はニコニコと笑みを浮かべている。
朝から、千石に亜久津はストーカーのように付きまとわれている。
理由は亜久津にも分かっているのだが、面倒だった。
睨みを利かせても千石には通用しない。
「そんな顔してもダメだよ、今日はどうしても待っててくれなきゃ、困るよ」
口を尖がらせながらいう千石だったが、本当に困っている風には見えない。
「…お前の帰りを待つほど暇じゃねーよ」
亜久津はそういいながら、歩みを止めない。
それにあわせる様に千石もぴったりとついて来る。
「ひどいな、亜久津〜俺たちそういう仲なのに?」
その千石の言葉に亜久津は足を止めて、千石をまた睨む。
二人はとりあえず、恋人同士らしい。
千石が振られ、亜久津がそんな彼を慰めてから、そんな関係になった。
実際のところ、亜久津は学校にはあまり来なかったし、テニス部を辞めてからは顔も見せなかった。
それでも、千石とそういう仲になってから毎日学校には来るようにはなった。
授業を受けているかは別だが、千石には嬉しいことだった。
階段の端で二人は歩みを止める。
「亜久津は覚えてないけど…」
亜久津はその千石の言葉をさえぎり、ポケットから小さい小箱を取り出した。
「まったく、面倒くせー奴だな、今日がお前の誕生日ってのはちゃんと知ってるぜ」
「え、だったら…」
そういってくれればいいのに。
といわんばかりに千石は亜久津の顔をみた。
亜久津は恥ずかしいのか、フイっと視線をそらす。
「学校じゃ落ちつかねーだろ、ったく…俺はもう行くぜ」
「亜久津」
亜久津はそのまま振り向かずに階段を下りようとする。
「部活終ったら電話しろ」
面倒くせーな。
と一言つぶやきながら、亜久津はその場を去っていく。
千石は亜久津からもらった小箱を抱えながら、笑みをこぼした。
部活が終わり、亜久津に電話すると学校の近くの公園にいるとのことで千石はそこへ向かう。
木の下で座っている亜久津を見つけると千石は何故か笑みをこぼす。
「亜久津、お待たせ」
亜久津は何も言わなかったが、嬉しかったのか、表情に出ないほど微妙に笑みをうかべた。
「亜久津、プレゼントありがとう、俺嬉しかったよ」
「そうか、よかったな」
あたりは夕暮れ時で静かだった。
「それで、俺、他に欲しいものあるんだけど、いいかな?」
亜久津は眉間にしわを寄せて千石を見た。
そんな亜久津を放っておいて、千石は亜久津にキスをした。
「好きだよ、亜久津」
亜久津はさらに眉間にしわを寄せて、今度は睨んできた。
「千石ってめェ…」
「睨んだってダメだよ、俺だって言葉が欲しいんだよ。亜久津からの本当の言葉がね。
それに今日ぐらい、いいだろ?」
千石は亜久津の口を人差し指で制するとニコっと笑う。
亜久津は溜息を静かに吐くと、気恥ずかしそうに言った。
「好きだぜ、千石」
「ありがとう、亜久津」
今度は亜久津から千石にキスを返した。
おわり